【校長ブログ】エスカレーターの乗り方(2021年9月29日)
このところ10月1日から埼玉県で施行される条例を、NHKニュースや読売新聞、朝日新聞、埼玉新聞などで取り上げています。それは「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」。埼玉県は10月1日から、利用者はエスカレーターで歩かないように促すルールを導入します。罰則なありませんが、利用者には立ち止まって乗ることを義務付け、管理者には周知を求めている。片側を空けることが習慣化したことで、エスカレーターで人とぶつかるなどとし、怪我をすることを防ぐのが目的です。
私の記憶では、1980年代には埼玉県や東京都などの関東圏ではエスカレーターを歩く発想はなかったと思います。大学生の時に関西の友人がエスカレーターを歩くのを見て、「えっ、何を急いでいるのだろう」と思ったものです。いつの間にか、関東では左側立ち、関西では西側立ちが定着してしまいました。これもなぜ、関東、関西で違うのかがわかりません。片方空けが取り入れられたのは、1960年代に阪急電鉄の梅田駅が始まりとされているそうです。阪急電鉄が急ぐ人のために片側を空けることを呼びかけました。
関東には「江戸しぐさ」の文化があります。江戸時代、江戸の町で人々が互いに気持ちよく暮らすためのルールができ、日常の立ち居振る舞いから言葉使いまで、「江戸っ子」といわれていた町民が使っていた所作全般を言います。この「江戸しぐさ」の根底には、日本特有の相手を思いやる心を形にしたものといえます。
例えば、「傘かしげ」とは、狭い路地ですれ違うときに傘がぶつかったり雫がかかったりしないよう、相手と反対側に少し傘を傾けること。この江戸しぐさは、公衆マナーですから法律のように「何々をしてはならない」というようなものでは有りませんし、罰則があるわけでもありません。こうした気配りがさりげなくできるのが「粋(いき)な人」で、身についていないのは「野暮(やぼ)な人」で格好悪いこととされました。
エスカレーターでも、お互い、粋に過ごしたいものです。