【校長ブログ】新聞小説『また会う日まで』
朝日新聞朝刊に池澤夏樹さんの連載小説『また会う日まで』が連載されています。戦前戦中に海図の製作などを担う水路部に所属した海軍軍人であった秋吉利雄の生涯を描く小説です。秋吉利雄は、池澤さんの父方の祖母の兄にあたる実在の人物で、敬虔なキリスト教徒で、海軍兵学校を出て海軍少将まで務めた軍人であり、東京帝大で学んだ天文学者でもあります。12月3日の連載小説の中に、日野原重明さんが再登場していました。日野原重明さんは7月に初登場し、主人公と親交を深めていました。
実在の人物である日野原重明さん(1911~2017)は、聖路加国際病院名誉院長として、105歳で人生を終えるまで生涯現役でした。1911(明治44)年生まれの日野原さんは、あるインタビューで「ご自分の寿命はどのくらいだと思いますか?」と聞かれると、ニッコリ笑い「120歳までは何とか行けそうです」と答えました。命のレコード(記録)を作りたいという野心が生きる励みになると語りました。「生きることに野心を持とう」と言っています。
日野原さんは、1970(昭和 45)年、羽田空港から福岡に向かう途中、よど号ハイジャック事件 に遭います。赤軍派を名乗るグループが北朝鮮行きを求め、飛行機を乗っ取ったのです。人質はみな脅え、日野原さんも死を覚悟しました。犯人グループが持ち込んだ本を「誰か、本を読みたい者はいるか?」と聞いたとき、みなは黙っていましたが、日野原さんはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を見つけ「それが読みたい」と手を挙げました。ページを開くと、本の冒頭の言葉が日野原さんの目に飛び込んできました。「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん。死なば 多くの実を結ぶべし」。聖書のヨハネ福音書の一節です。すうっと心が落ち着き、命とは何か、 死とは何か、深く考えたそうです。 幸いなことに、三日後、日野原さんは、韓国の金浦国際空港で無事に解放されました。地面を踏んだ瞬間、足の裏から「ビビビっと霊感のようなもの」を感じ、自分が生きているということを実感したそうです。命とは与えられた命であり、自分が多くの人々に支えられてきたことを深く思い、これからは、内科医としての名声を求めるのではなく、誰かのために人生を捧げようと決心したそうです。
日野原さんの「命は時間。命を大切にするということは時間を大切にすること」という言葉を、 私は時々思い出します。 コロナ禍で辛い時期が続きます。3年生は1月の大学共通テストが近づいています。1、2年生も時間の大切さに気付いてもらいたいと思います。