ニュースリリース

【校長ブログ】意志ある未来か 成り行きの未来か

 国に中央教育審議会という組織があります。文部科学大臣の諮問に応じて、教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項、スポーツの振興に関する重要事項を調査審議し、文部科学大臣に意見を述べる役割があります。この中央教育審議会には課題の性質別に分科会、さらにその下に部会・委員会がおかれ、それぞれについて別途委員が選任されています。私は、令和2(2020)年5月26日に中央教育審議会初等中等教育分科会に関わるNPO法人カタリバ 代表理事 今村久美 委員や島根県教育魅力化特命官 岩本悠 委員らが取りまとめた資料を定期的に再読しています。以前、今村久美委員や岩本悠委員からそれぞれ教育への熱い思いを何回も伺ったことがあります。1年半前の提言ですが、現在の私たちは、どこに向かっているのか定点観測をすることが大切だと思っています。

●は、成り行きの未来(何も手を打たないと起こりうる避けたい未来)。

〇は、意志ある未来(新しい教育を通して切り拓く未来社会)。

【●2020年】

●文科省を始めとした教育行政は、9月入学議論への対応、規制改革への対応、コロナ禍の状況変化への対応等の受け身の防戦に追われ、先を見据えた骨太で効果的な政策を打ち出せず、場当たり的・局所的な対処療法に終始した結果、初等中等教育改革の機を逸する。

●ICTの活用は、一部の私立学校、広域通信制高校や意識の高い教職員・生徒のなかでは進むが、特に公立学校の大多数では、設置者の縛り、全員一律一斉に始めることへの囚われ、万が一のトラブルリスクなどを理由に進まず、格差は拡大。

●土曜や夏休み、学校行事等が削られる一方、普段以上の速さでの詰込み授業と多くの宿題で、内容を終わらせることに躍起になる学校。負荷が高く、時間的・精神的な余白を無くした学校では、置いていかれる子供、人間関係のトラブル・問題行動・いじめ・不登校・退学等が増加。経済的な困難さを抱えストレスが高まる家庭も増えるなかで、虐待・貧困、全国的に自死者も増加。

【〇2020年】

〇国及び都道府県・市区町村は社会の多様な主体と連携・協働し、新しい時代(新常態)を見据えた部局横断の政策総動員により、それぞれの現場の創意工夫を、人・物・制度・情報等で力強く支援・伴走する。

〇現場では、学校・家庭・地域が「子供たちのために」という共通の想いでつながり、大人も子供も共に学び、共に試行錯誤・探究しながら、ICTの活用も含めてやれるところから・やれることから、力強く前進。

〇各現場は地域をこえてつながりあい、それぞれの取り組みの成功も失敗もそこからの学びも共有・伝播し、地域やセクターを越えた学びあいや助けあい、連携・協働も生まれていく。

【〇2021年】

〇ICTインフラが全国の現場に整ったとき、教職員や子供、保護者、地域の人たちが共に「いよいよ、全面的にできる!」と喜びあい、休校の有無に関わらず、個別最適化された学び、地域社会につながる協働的・探究的な学びを、全力で展開。

〇遠隔教育・オンライン学習等は、コロナ禍の緊急的な運用によりトラブルは一部発生したが(早期に対処し、迅速に改善・学習を重ね)、臨時的「運用」で得られた多くの知賢から、現場のための効果的な「制度・運用の仕組み」を確立。

〇GIGAスクール構想は、インフラ整備とデバイス配布に終わらず、日本が積み上げてきた教育の強みを更に活かし、弱みを補完する必要不可欠なものとして、初等中等教育改革・教職員の働き方改革の起点・起爆剤となる。

〇コロナ禍の逆境と社会総がかりの探究が、子供も大人も大きく成長させ、人と人、学校と家庭・地域の絆を結びなおす機会となるとともに、コロナ禍を共に乗り越えた経験が、子供たちや教職員、保護者、地域の人たちの大きな自信と誇りとなる。

〇コロナ禍における各地での探究や試行錯誤の過程を通して、「予測不可能な社会を生きるために必要な資質・能力」や「探究的な学びの価値」が日本全体に共有され、社会総がかりで子供や学校を支え、教育に参画する土壌がレガシーとして残る。

【●2021年】

●情報通信インフラが全国の学校現場にようやく整ったときには、コロナ禍は下火。大多数の教員は「ようやく、今まで通りの授業ができる!」と喜び、今までの遅れを取り戻すためにも、今まで以上の詰込み一斉授業を展開(対話的な授業や地域社会とつながる学習活動、探究は感染拡大リスクがまだあるということで、行われず)。

●休校ではないので、「この大量のデバイスどこに保管します?」「やっぱり、長年慣れ親しんだ今まで通りの対面授業が一番!」という大多数の教員と子供の声。

●遠隔教育等は、コロナ禍の緊急的な運用によるトラブルや弊害が一部出たことを受け(それがマスコミにも取り上げられ、大多数のICTに不慣れな教職員や教育関係者の不安・不満の声もあり)、コロナ禍限りの臨時的「運用」で終わり、「制度」にはならず、大きく後退。使い勝手の悪い制度・運用ルールに更に縛られ、手間だけ増えて利便性は喪失。

●行政はICTを使わせようとし、現場はICTを使い報告することが目的化・負荷業務化し、疲弊・負担感は更に増加。GIGAスクール構想は、インフラ整備とデバイス配布に終わる。

【〇2022年】

〇コロナ禍を乗り越えた新しい時代の学校教育への期待や希望により、財政難においても教育予算は維持・拡充。全国の学校のICT環境の維持・管理・更新コストは防災も含めた必要不可欠な社会インフラとして社会全体で保持。

〇小規模校は地域社会や情報社会(ICTや先端技術)、他校とのつながりを活かした魅力ある学校として、過密都市からの新たな人の流れ・人づくり・持続可能な地域づくりに必要不可欠な拠点となる。

〇誰一人取り残すことなく質の高い教育を行う魅力ある学校教育の実現により、不登校やいじめ、教育格差、虐待等は減少。

〇学校の多様な働き方とやりがいの向上により、社会の多様な人材や若者が教職員を目指すようになり、教職員の資質・能力が更に向上。

〇2024年度の大学入試改革や一人一社制等の採用慣習の見直し等により、子供たちが身につけた多様な資質・能力が充分に評価されるようになり、意志ある多様な進路実現(地域・海外への留学・進学・就職等も含む)や社会に出ても学び続ける若者が増加。

〇2025年の万博を機に、未来社会に開かれた日本の教育が海外からも注目を集め、日本の教育の海外展開と海外からの留学が加速。

〇2025年以降の本格的な人口減少・少子高齢化・国際化・Society5.0時代においても、一人一人の可能性の開花により、日本の強みである文化・感性・創造性とモノづくり・科学技術の力を活かした新たな地域創生、産業創出を推進し、新経済・財政健全化を実現。

〇誰もが学び挑戦できる生涯学習・一億総活躍社会の推進により、持続可能で幸福度の高い日本、そして教育立国・人財立国として国際社会に貢献する課題解決先進国NIPPONを実現。

【●2022年】

●教育改革への期待の喪失とともに、超財政難による教育予算の大幅削減。「ICTをこれだけ入れたんだから」と教職員定数は大幅削減。そのうえ、長期に渡って圧し掛かる大量のデバイス・インフラの維持・管理・更新コスト。そして、苦肉の策としての小規模校の統廃合が全国的に加速(地域社会とのつながりが希薄な都市部の大規模校へ集約)。

●「個別最適化」も掛け声倒れに終わり、魅力のない学校教育により、不登校・退学者等は増加。教員採用の倍率は落ち続け、教育の質の低下に長期間歯止めがかけられない状態に。

●民間教育産業により経済力のある家庭や一部の私立学校等へのEdtechやSTEAM教育の導入は進むが、家庭や地域の経済・文化・社会資本格差による教育格差は拡大。社会格差の拡大と社会保障関係費の増加へとつながっていく。

●子供たちは学校、塾、家庭(オンライン)の中だけでの勉強を続け、やりたいこともわからず、文理分断・偏差値軸での進学先・進路を選び、過密都市への若者の一極集中は更に進む。

●学校卒業後の若者の学ぶ意欲は低く、一人一人の可能性が開花しない中で迎える、本格的な人口減少・少子高齢化時代。地方は衰退し、Society5.0時代の国際競争から日本は脱落、経済・財政危機、社会不安・失業・貧困・虐待・犯罪・自死等が増大…