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【校長ブログ】『ゲンロン戦記』

 「中央公論2022年3月号」では、2022年新書大賞が紹介されていました。年間ベスト10のうち、私が読んだことがあったのは、2位の小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書 2021年)、3位の伊藤俊一『荘園』(中公新書 2021年)、6位の濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書 2021年)、7位の武井彩佳『歴史修正主義』(中公新書 2021年)の4冊でした。

 今回、第5位の東 浩紀『ゲンロン戦記』(中公新書クラレ 2020年)を読了しました。題名や本の装丁からすると、本屋では自分では手が伸びない本ですが、読んでみたらなかなか面白い。株式会社ゲンロンの創業からの10年間の試行錯誤と変遷を、創業者の東 浩紀さんが自らまとめたものです。放漫経営、個人保証の借金、社員に逃げられたりと次々とトラブルが襲います。理想と現実のギャップのはざまで、超低空飛行が続く中、「知の観客」をつくり、さらに育て、「誤配」や「観光」といった東 浩紀さんの哲学的モチーフの発展、深化がありました。

 キーワードは「誤配」。東 浩紀さんは、コミュニケーションでは「誤配」が大事だと考えています。自分のメッセージが本来は伝わるべきでない人に間違って伝わってしまうこと、本当なら知らないでもよかったことをたまたま知ってしまうこと。そういう“事故”は現代ではリスクやノイズと捉えられがちですが、東 浩紀さんはそのような「誤配」こそがイノベーションやクリエーションの源だと強調されています。ミスのないように、不祥事のないようにとするあまり、「誤配」という化学反応が起こりにくい社会になっていることに気付かされました。痛快な一冊でした。